福岡高等裁判所 昭和28年(ナ)4号・昭28年(ナ)2号・昭28年(ナ)3号 判決
原告 藤芳三次 外二名
被告 熊本県選挙管理委員会
被告補助参加人 松前重義
一、主 文
原告等の請求は何れもこれを棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告経力祐訴訟代理人並びに爾余の原告等は、「昭和二十八年四月十九日に執行された、衆議院議員選挙における熊本県第一区中の熊本県阿蘇郡山田村の選挙は無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として「原告等は、何れも昭和二十八年四月十九日執行の熊本県第一区衆議院議員選挙の選挙人である。右選挙区における衆議院議員の定員は五名で右の選挙の結果は、松野頼三が、得票数五万四千八百八十票、藤田義光が同五万六百十七票、大麻唯男が同四万四千四百九十四票、大久保武雄が同四万四千百票、松前重義が同四万三千三百四十七票で、それぞれ当選し、石坂繁が、同四万三千八十一票、坂本泰良が、同四万二千三百七十二票、寺本斉が、同三万四千七百三十七票、湯川康平が、同四千四百三十七票、井上栄次が、同四千百九十七票で落選となつた。しかるに、右第一区内阿蘇郡山田村(投票区四区開票区一区)においては、同村投票管理者が、同村内の第二投票所を同村農業倉庫と指定告示したに拘らず、同村選挙管理委員会において正規の手続を経ず、且つ何等正当の理由がないのに拘らず、投票の前日たる同年四月十八日に、勝手に投票所を同村青年会館に変更し、且つ変更後の投票所の告示もしなかつた。右は明かに、公職選挙法第三十九条第四十一条第一項第二項の規定に違反するのみならず、同村第一乃至第四投票区の投票当日の有権者数千五百六十八人、その投票者数千三百二十二人(内訳松野頼三、得票数二百六十五票、藤田義光、同八百七十四票、大麻唯男、同三十四票、大久保武雄、同十五票、松前重義、同九十三票、石坂繁、同二票、坂本泰良、同十二票、寺本斉、同三票、湯川康平、同六票、井上栄次、同十票、無効八票)で、右山田村第二投票区における投票当日の有権者数四百七人、投票者数三百二十七人であるから、当然右違法は右選挙の結果に異動を及ぼし、同村の選挙は当然無効である。しかるに熊本県選挙管理委員会はこれを無効とせずして、前記の如く当選人の決定をしたのは違法であるから、右選挙の無効宣言を求めるため、本訴請求に及んだ」と陳述し、被告並に同補助参加人の主張に対し「本件選挙当日迄、従前指定告示されていた第二投票所たる倉庫に、政府買上米が満庫されていた事実、投票前日変更後の投票所たる青年会館の表門に衆議院議員投票所と貼紙された事実は否認する」と述べた(証拠省略)。
被告は主文同旨の判決を求め、その答弁として「原告主張事実中原告等が当該選挙区の選挙人であること、山田村における開票区並びに投票区の数、各候補者の山田村における得票数及びその総得票数山田村及び同村内第二投票区の各有権者数並びに投票者数が、何れも原告等の主張どおりであること、同村第二投票所を予め指定告示した山田村農業倉庫から約七十米離れた青年会館に変更したこと、及びその変更について告示しなかつたことも認める。したがつてこの点選挙の規定に違反しているが、そのために何等選挙の自由公正は害せられたものといえず、選挙の結果に異動を及ぼすものでもないので、原告の本訴請求は失当である」と陳述し、
被告補助参加人は(一)山田村投票管理者が、原告等主張の如く、同村第二投票所を同村農業倉庫から、同村青年会館に変更したのは投票日前日に右農業倉庫に政府買上米が満庫されていて、右投票日に投票所を開設することが、不可能なことが判明したものの、右米俵を他に搬出するには、農林省食糧事務所の許可を要するし右満庫の米俵を直ちに他に搬出すことは至難であつたため、止むを得ずにしたことであるから、右変更は何等選挙の規定に違背するものでない。なお投票前日、変更後の投票所たる青年会館の表門に、衆議院議員投票所と貼出して告示に代えた。(二)仮に右変更が、選挙の規定に違背するものだとしても、右第二投票所の有権者数は、原告主張の如く四百七人、投票者数三百二十七人であるから、右投票所の棄権者は八十人であり、右八十人の棄権が本件投票所変更の告示がなかつたがためであるとし、若し適法な右告示があつたならば右八十人が全部投票し、右八十票を何れかの候補者に全部投票したものとして、右得票の計算をしてみても、何等選挙の結果に異動を及ぼさない。(三)第二投票所の投票三百二十七票全部が無効だとして、各候補者の得票数から右三百二十七票宛平等に差引いてみても、また潜在無効投票の法意から推して、山田村(開票区は全村一区)の各候補者の得票に、第二投票所の投票数を按分して差引いても、選挙の結果に異動を及ぼさない。(四)山田村の有権者数千五百六十八人から、その投票者数千三百二十二人を控除した二百四十六人の山田村の全棄権者等が、本件第二投票所の変更規定に違背したため棄権とみて、右二百四十六人の棄権者等が、次点者石坂繁に投票すべかりしものとしても、石坂繁の得票数四万三千八十一票に右二百四十六票を加算した総数は四万三千三百二十七票となり、これを最下位当選人松前重義の得票数四万三千三百四十七票に比較するも、なお二十票不足するので、これ又選挙の結果に異動を及ぼすものといえない。(五)右山田村の開票の結果、各候補者にそれぞれ帰属した各得票数を全部無効として、熊本県第一区における各候補者各自の総得票数から各自の山田村の各得票数をそれぞれ控除しても、前同様選挙の結果に異動を及ばさない」と述べ、その他は被告と同趣旨の陳述をした(証拠省略)。
三、理 由
本件選挙において、熊本県阿蘇郡山田村の投票管理者が、同村内の第二投票所を、同村農業倉庫として正規の指定告示をしたが、その後投票日の前日に至つて、右告示の投票所を、同村青年会館と変更しながら、何等の告示をしなかつたことは当事者間に争いのないところである。
しかして、公職選挙法第四十一条第二項によれば、投票管理者が投票所を変更したときは、選挙の当日を除くの外、直ちにその旨の告示をしなければならないことになつているのであるから、右管理者に被告補助参加人主張のような変更事由があり、右事由が同法条のいわゆる天災その他避くることのできない事故に該当するか否かを問わず、右事由に基いて投票所を変更したにつき、右投票管理者が右変更の旨の告示をしなかつた以上、本件投票所の変更は、右選挙の規定に違背し、違法であるといわねばならない。被告補助参加人のいうように、よしや変更後の青年会館の表門に投票所を表示する貼出をしたからとて、右法条の要求する告示の効力を生ずるものとはいえない。
原告等は、本件における右選挙規定の違背は、本件選挙の結果に異動を及ぼし、本件山田村の選挙を無効とすべきであると主張するので、右の点につき判断する。成立に争のない乙第一号証の一乃至七十一、第二号証、第三号証乃至第五号証の各一、二、検証の結果並びに原告及び被告補助参加人の援用に係る前記各証人等の証言を綜合すると、同村投票管理者が、本件第二投票所を前記の如く変更するに至つたのは、同村の投票管理関係者と、同村農業倉庫関係者との間に、右倉庫を第二投票所として使用するについての連絡、交渉が充分に行届かなかつたために、右投票管理関係者が、投票前日同倉庫におもむいたところ、同倉庫には政府米二千三百三十俵収納されて居り、事実上投票所として使用の予定であつた同倉庫の下屋にも玄米五、六十俵位の外肥料、棟木等積み重ねてあつて、一見これを早急に片付けることの煩を思い、又右投票管理関係者が右の選挙法規に暗く、しかも従来とて同村青年会館を、第二投票所として使用した事例が多かつたため、今回も何等告示を要せずに、た易く青年会館に変更できるものとうかつに考え、変更しても従前の例からして選挙人に影響ないものとみなして、これを変更したものであること、なるほど青年会館は従前第二投票所として数回使用され、しかも変更前の投票所たる右倉庫と変更後の投票所たる青年会館とは、その距離からいつてもその場所的関係からいつても格段の異別はなく、且つ右変更された投票日の前日に右青年会館の玄関の柱に、衆議院議員投票所と記載した貼紙をしたこと、右第二投票区における当事者間に争のない八十名の棄権者の全部が病気他出職業老年等の事由のために棄権したもので、投票所が変更されたため困惑して投票を断念したものでないことの各事実が認められる。右認定を左右するような証拠はない。だとすれば、第二投票区の棄権者八十名の棄権は投票所の変更に原因するものでないことが明白であるから、本件第二投票所の変更は、選挙に何等の影響をも与えなかつたものといわなければならない。さすれば右投票所の変更について、選挙の結果に異動を及ぼすおそれの有無を判定するの要はないであろう。
しかして法が一定の事由がなければ、投票所の変更はできないし右変更には告示を要するものとしたのは、告示が適法に行われなかつたならば、選挙人は投票所の場所が分らず、棄権者を多く出すことになることをおそれてのことであるから、他に特に選挙の自由公正を害するような特段の事情が加わらない限り、現実に投票したその投票にまで前説示の違法性が流れこむ理由はなく、他にそのような特別の事情のあつたことは原告等の主張立証しないところであるから、仮に第二投票区の八十名の棄権者が本件投票所の変更のために棄権したものだとして、右八十票の棄権票を次点者の石坂繁の得票数に加えても、選挙の結果に異動を生じない。しからば、本件投票所の変更のために何等選挙の自由と、公正が害せられたものでなく、したがつて、右選挙の規定に違反するけれども、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがないものといわねばならない。
よつて原告等の本訴請求は何れも失当としてこれを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 桑原国朝 二階信一 秦亘)